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1m+1mの[歩育空間] ―現代社会は歩き難い―
歩くことは,人との交流を促し,健康維持にも貢献している.そして,子どもが元気に走り回っている姿は,町の活性化を印象づける.歩くという行為を育める空間,つまり<歩育空間>は,現代社会をいきいきと暮らすための可能性を秘めている.
今回の敷地は,1970年代に開発された郊外住宅地の一郭である.この地域では,世帯数が増えているにも関わらず人口は減少傾向にある.しかし,その一方で60歳以上の人口は約4.7倍に増え,高齢化が進んでいる.郊外住宅地での生活において車は必需品である.一家に1〜2台の車が保有され,生活空間を侵食している.これでは,足腰が不自由になった高齢者や小さな子どもたちにとっては危険が多すぎる.そこで,誰もが安心して歩ける空間を考えた.
このあたりの地域は,設計に際して1mずつの壁面後退が義務づけられており,敷地境界線の内側1mの範囲に建築することができない.そこで,この壁面後退によって発生する,絶対に建築できない余白空間を<歩育空間>として活用する.
さらに,住民のライフスタイルも分譲当初と比べると大きく変化している.各家庭では,子どもが独立して家を出て行ってしまったために空き部屋が増え,住宅内部の空洞化が進んでいる.このような空き部屋を「減築」し,<歩育空間>をより一層活性化させる場を形成する.
<歩育空間>は,地域を一体化させるとともに,安心して暮らせる高齢者に優しいいきいきとした住環境を提供する.
なお,この作品は大和ハウス工業株式会社と大阪市立大学大学院居住科学研究科が主催する「第2回高齢者いきいき居住アイデアコンテスト」の「建築設計の部」において最優秀賞を受賞した.
※「歩育」とは
本作品では,お年寄りがいきいきと暮らすための場と子どもを保育する場を「歩く」という行為によって結びつけながら創造する,という考えから「歩育空間」という表現を用いて,それを核とした提案をおこなっている.ただし,「歩育」という表現自体は,財団法人大阪府レクリエーション協会の造語であり,2005年より同協会によって用いられている.
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