山之内元町長屋
敷地のある山之内元町は、古くからの荘園地として人々の生活が営まれてきた地域である。地主も多く、長屋に関わらず、古い建物がたくさん残っている。迷路のように入り組んだ集落のなかで、周辺に比べると少し開けた場所に山之内元町長屋はある。
建築から約80 年を経るなかで、煙抜きのためのトップライトが塞がれ、真壁から大壁へと改装され、部分的に小壁が取り払われていた。歴史を刻むさまざま変化を受け入れながら、新しい暮らしを受容するためにプランニングを整えるとともに、耐震補強、屋根の軽量化、設備の更新をともなう改修をおこなった。
建築当初の間取りを読み取り、それを尊重しつつも、既存の状態よりも部屋の境界線を明確にして、4つの個室を田の字型に配置した。
田の字型プランに対して、図と地の関係となるような土の字型の空間が入り込んでいる。
土の字型の部分は、小壁による仕切り、床のレベル差、吹抜による天井高さの変化など、既存の間取りがもつ要素をそのまま残しつつ、田の字型の均質性に対峙する不均質な空間となっている。私室に近い場もあれば、外部に近い場もあり、暮らし方によって柔軟に対応できる場となっている。
2住戸の庭はつながれ、玄関までのアプローチとして活用する。また、界壁に設けた仮設壁を取り除くと4人でのシェア居住が可能となる。長屋特有の人のつながりを引き継ぎつつ、現代の住まいとして生まれ変わった。
山之内元町長屋の外観
2つの長屋の界壁が一部取り払われ、空間的な拡がりをつくった
隣り合う住戸につながる場所にトップライトからの光が降り注ぐ
庭側から土間を介して南側の前面道路方向をみる
長手と短手の両方に空間が拡がることでシークエンスを作り出している
床レベル、土間レベル、垂壁、天井というさまざまな高さレベルが空間に多様性を与えている
長手方向に土間から庭をながめる
北側の庭の様子
(写真撮影:多田ユウコ)
※この作品は『新建築2017年2月号』『JA103 AUTUMN 2016 まちのはじまり』に掲載されました。
|